「開運老松」昔ばなし

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信州松本の銘菓「開運老松」は昭和三十九年(一九六四)、開運堂創業満八〇周年の記念に創作販売しました。

当時の松本はまだまだ専業農家が多く、開運堂のお客様の中にも農家の方が大勢いらっしゃいました。機械化されていない農作業は過酷な肉体労働だったため、「開運老松」は味が薄い(=甘味が足りない)と悪評でした。
しかし、都市部ではこの淡白な味が好評で、発送注文を沢山いただきましたが、現代のように生菓子を安全に長期保存する技術も、また宅配便も無く、近隣地でも郵便小包で2~3日。お客様の手元に到着する頃にはカビが発生してしまい、苦情が絶えませんでした。

電子レンジで熱殺菌

 昭和四十四年だったと思います。「電子レンジ」なるものが出現しました。発売のキャッチコピーは確か…「冷えたご飯が瞬時に炊きたてのように温かく」だったと思います。
開運老松のカビに悩んでいた私達は「そんなに凄い性能なら、熱殺菌が出来るのでは?」と考え、非常に高価な道具でしたが、迷わず飛びつきました。
そして…、確かに効果は抜群。昭和四十五年七月十九日から「チン!」した開運老松を自信満々で全国へ送り出しました。
 ところが、斑点状にカビが発生する不思議な現象が多発し、またまた返品の山…。熱殺菌や連続使用はレンジメーカーでは想定外で、数人のメーカー研究員が色々な機械を持ち込み、数日にわたり我々と一緒に朝から晩まで「チン!チン!チン!チン!」。
その実験データを持ち帰り、それから間もなく受け皿が回転する新型の「ターンテーブル式電子レンジ」が発売されました。
部分的に発生した開運老松のカビは、どうやら電子の照射ムラによるものだったようで、物体を回転させてそれを解決したのです。

 その後、開運老松の増産に対応し全長一〇メートルの特注コンベアー式超大型電子レンジを開発しましたが、まもなく脱酸素剤が発明され作業性と確実性が飛躍的に向上し、開運老松は電子レンジに別れを告げました。こんな特殊な体験をした和菓子は、世で開運老松だけかもしれません。

*** 「開運老松」が誕生した 昭和三十九年の出来事 ***
○東海道新幹線開通 
○東京オリンピック開催
○新潟大地震